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麻生藩家老屋敷屋根葺き替え 2011年2月13日

うっとうしい日が続いて、やっと晴れた。今日は麻生の町に残る史跡、家老(畑家)屋敷の茅葺き屋根の葺き替え工事の見学会があるので出掛けることにした。正月の3日の観福寺以来、久々の浜風である。風は冷たいが日射しにはもう力がある。ここには一昨年行っているので、葺き替え前の姿はここをご覧いただこう。

見学会は午前10時からと午後1時半からの2回あったが、朝方、道路が凍結していたので午後の回にした。判断は正解だったようで、あちこちにスリップ事故の痕跡を見た。鹿行大橋の中央では、事故車が2台片側車線を塞いでいて、そのうち1台は完全に反転して裏返しになっていた。

1時半から予定通り見学会が始まり、まず行方市教育委員会の担当者が挨拶したあと、工事監督から葺き替えの工法や道具、それに葺き替え材などの説明があった。監督はまだ若い人だったが、実際に屋根に登って工事をしているのは、どうみても70代といったところが大半。工事を受注するのは彼が所属する茅葺き専門の会社のようだが、実際に働く人は、その会社が各地の技術保存者を組織してあたるようである。工事は去年の12月から開始され、現在7分程度の進捗で、完成は3月の予定。

正門側から瓦はリフトで

現場の周囲は作業のじゃまにならないように立入禁止。張りめぐらされたロープの外からの見学になる。

左側が玄関 右奥が母屋母屋

屋根に多くの人が登っているが、実は2つのグループに別れる。左の玄関の棟の部分は稲敷市の職人が、右側の母屋の平葺き部分は福島の職人が担当している。なぜ2グループかは訊きそこなったが、玄関上の切り妻のカーブは難しそうで、この地方の職人が伝統の技をふるうのか。茅葺きの技は地方ごとにことなるが、関東では大別して新潟系と福島系があるそうで、この地方は福島系だそうだ。関東でも東京や埼玉の一部には新潟系が入っているという。

この屋根の葺き替えに必要なカヤは1万〜1万2千束

わたしより高齢のひとが大半。さすがに動作は緩慢だが、あの高さであの簡単な足場で終日作業をするとは恐れ入る。大勢居るが葺きの技術をもつ職人は6人だそうで、あとはお手伝い。

 
屋根に段々に設置されている竹材は足場 完成後は取り外される

茅葺きというときの「カヤ」については、わが山の会でも何回か話題になったことがある。工事監督の定義では、ススキ、アシ、オギ、イネなど屋根を葺くのに適した材はすべて屋根に上がるとカヤになるとのこと。要はカヤとは植物名でなく屋根葺き材の呼称なのである。屋根葺き材を集めるために集落が管理する場所がカヤバ。東京の茅場町ももちろんもとはそうした場所だったのだろう。

ススキ、アシ、オギワラ

しかし、これだけの大きな工事に使う主な道具は次の4種類。

押し切り ワラの成形刈り込み鋏 出面を切りそろえる

押し切りは我が家にもあるが造りははるかにガッシリしている。刈り込み鋏は鋭利でうっかり触ると怪我をしそう。普通の鋏と違って曲面になっている。

ガンギ その1 ワラを叩き締めるその2(やや重量がある)

経費のことが質問されると、100坪くらいの家を建てるほどの額だと口を濁していた。個人情報でもあるまいし、公の費用なのだから調べればわかること。なぜ明言しないか理解できなかったが、あまりに費用が掛かりすぎると思われるのをはばかったのか。藁葺きという作業はむかし、地域社会の関係者が手弁当で労働を提供し、素材は近辺にある“カヤ”や竹を利用したのだから、実質的な“経費”は家の主が接待に使う金品とわずかの用材ぐらいだったのだろう(当時としては相当な出費であるにせよ)。しかし現在では、その作業すべてを営利企業が請け負っている。つまり、人権費、素材費だけでなく廃材の処分費までがすべて経費に積算されるわけだ(監督の話)。となれば言うのもはばかられるほどの額になるのもうなずける。伝統を保存するのも大変なのだ。

  
   
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