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燻製というものをやってみることにした。まともなベーコンが食いたいからである。さっと炒めただけでもいいし、カリカリに焼いたのでもいい、スパゲッティのトマトソースに香り付けに入れてもいい。普通に売っているベーコンは発色剤や保存料が入っているから、炒めると妙な焼け方になる。べたべたした析出物がフライパンにこびり付いて焦げるのが、やなのだ。自分でバラ肉を多小のスパイスと塩だけで漬けたものを燻製したのなら、そうはならないだろうと考えた。

"燻製"についてネットで検索すると、ぞろぞろとサイトがヒットする。製品広告も少なくないが、燻製が趣味のひとは結構多い。それぞれに一家言あったり、あれこれ模索中だったり、あるいは、きわめてお手軽だったり、逆に、やたらに手間を掛けたりといろいろある。

まず一番に道具がいる。燻製器、あるいはスモーカーがないと燻製ははじまらない。フライパンでやるとか、段ボールを使うとか、石油缶だドラム缶だ、木組みだ石組みだといろいろである。既製品を買ってしまえば手っ取り早いが味気ない。あまり安易なのもつまらない。結局、庭の隅にブロックを積むことにした。レンガといきたいところだが、まずは手軽に庭に転がっているブロックを利用し、さらにいくつか買いたすことにした。呼び名も、燻製器やスモーカーではなく燻製炉と自称することにした。試しにあれこれ積んでみた。最終的に、高さは横積みで3段、奥行きは長手で2枚分、幅は長手で1枚 に落ち着いた。

内部の寸法は高さ60、幅40、奥行き70cmくらいになる。底には大きめのどぶ板を敷き、天井はSonyの旧モニタのフロントガラスを被せる。ガラスだから内部が観察できる。その内側左右に木の支柱を2本ずつ合計4本立てる。それにコの字の刻みを入れ、そこへ金網を差し込む。これに燻製するもの乗せるわけだが、刻みは8段ほどあるので網の高さは自由に調整できる。前面は扉としたいところだが、蝶番は面倒なので一枚板のはめ込みにした。その板の左下と右上に開口部を設ける。左下の開口は内部のモニタとチップの補給、換気などに使う。右上は、サーモスタットの本体とセンサー、それに温度計を取り付ける。センサーと温度計は板に穴を開けて内部まで貫通させる。板には縦方向に3個所ほどドリルで穴を開け、温度計を差し込めるようにする。使わない穴は短く切った釘で塞ぐ。30度〜110度のサーモスタットと600Wの電熱器は、秋葉原の坂口という専門店でセットで売っているのを買ってきて配線した。とまあ、簡単にできたようだが、実は2月から 真夏の中断を挟んで、完成したのは11月も末であった。細部の作りはまさに試行錯誤で、最初の構想はどうだったかなど、忘れてしまった。

いろいろ難関があった。まず土台の水平を出すこと。これが意外に難しい。つぎに、ブロック積み。ブロックの間にモルタルを盛って、そこへ次の段をのせてゆくだけだが、これを寸法を考えながら実行するのは、素人には容易なことではなかった。ブロックができたところで、内側に木枠の 取り付け、さらには目地の密閉と、次から次へと難問が出てきたのだ。それでも、なんとかそれらしき形になったのは秋になっていた。

一応の完成を見たところで、テスト運転をしてみた。なんと言っても燻製では温度管理が重要だ。燻製は保持温度によって、冷燻、温燻、熱燻とある。冷燻はともかく、熱燻では100度くらいまで温度を上げる必要がある。しかし600Wでは炉の容積に対して熱量が不足なようで温度がなかなか上がらない。そこで、ホームセンターで300Wのニクロム線を買ってきて、即席の電熱器を作って、熱源を補強した。

次に問題になったのは、サーモスタットの温度設定だ。これがどうも、実測の温度と10度くらい違う。サーモの設定温度より実測の温度が10度ほど高いのだ。ただ、実測温度といっても料理用のバイメタルの温度計で測るのだからそれほど精度があるわけでないし、サーモのセンサーの位置と温度計の測定位置が少し離れているので、狭い炉内では熱源が近ければ、相当な違いのでる可能性がある。ただ、10度の差自体はあまり温度によって変わらないようなので、その分を差し引いて設定すればよいわけだ。サーモも2600円ほどのものだから誤差も大きい。スペックでは、設定温度に対して±4度くらいの範囲でしか制御できないようだ。つまり、60度に設定すると56度〜64度くらいの間で変動するのはやむをえない。

てなことで、手始めにサンマとサバをやってみた。ときは奇しくも11月21日、わが63歳の誕生日であった(何の関係もないのだが)。サンマは、燻製愛好者のあいだではソミュール液と呼ばれる ハーブやスパイスを入れた塩水に1日ほど漬けたもの。サバは手抜きで文化サバである(要するに普通に売っている干物のサバ)。最初は失敗を覚悟しているので、あまり高価な素材は使わない。諸処のサイトをあたって、まず1時間風干し、次に1時間温干して、それから60度くらいで温燻を3時間と決めた。しかし、案の定というべきか、温度制御がままならない。ヒーターを合計900ワットに増強した ものの、ブロックの熱容量が大きいからいたしかなないのだが、最初はなかなか温度が上がらない。中途半端な温度で腐ってしまわないかとはらはらした(これで気づいて、以後は最初に温度を上げるためにコールマンで予熱することにした)。結局、用心して初回の燻製にはトータル6時間もかけてしまった。しかし、できあがりは実に美しい。サンマなどはピカピカ金茶色に輝いている。どの本でも、すぐには食さず一日おくべしとかいてあるが、それも当然。半日も煙につきあうと、燻製など食う気はしない。そして最後に、悲劇がまっていた。美しくできあがったサンマとサバを網から剥がそうとしたが、これが糊付けのように張り付いてしまっている。やむなく、べりべりと引き剥がすことになって、無惨やな美しい皮がアーア、となってしまった。しかし、冷蔵庫に数日おいて食べた燻製はなかなかのものだった。それ以後、燻製炉の構造に細かな改良を加えながら、ベーコン、サーモンなど何種類かの素材を試している。いずれもなかなか気に入ってしまった。なんだかはまりそうな燻製経験である。


 
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