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モミジバフウの実から

こないだ(2007/11/14)のモミジバフウの実を見て思い出したことがあるのでまとめてみた。この内容は、下記のサイトで読んだ話の受け売りで、それに尾ひれをつけただけである。この文章にはオリジナリティはないことを断っておく。

京都教育大学 タイワンフウ

正確には、タイワンフウについての話だが、見かけはそっくりなので、多分、モミジバも同様だろう。実を拾ってきてあとで確認してみることにしよう。

モミジバフウの実
モミジバフウの実

次図は、タイワンフウの果肉がとれた核の部分と、サッカーボールと、炭素原子の構造体C60とを比較したものである。そっくりだ。

サッカーボールいろいろ

サッカーボール
タイワンフウの実サッカーボールC60 炭素原子60個の構造体

一見して似ているだけでなく、どれも、幾何学でいう切頂20面体である。切頂20面体は、正20面体の12個ある頂点を次図の要領ですっぱり切り落としたものだ。切り取った面は正5角形で12個、残りの面は正6角形で20個となるから、多面体としては32面体になる。

正20面体
正20面体(頂点12)1:2で切るようにスライス切頂20面体(正6角形20、正5角形12)

多角形を貼り合わせて閉じた立体を構成する方法は、紀元前のギリシアでさかんに研究されていた。代表的なものがプラトンの立体(正多面体)とアルキメデスの立体(準正多面体)だ。切頂20面体は、アルキメデスの立体の一つである。アルキメデスの立体については、Wikiに見事なサイトがあるのでご覧ください。上図もそこから拝借したものである。

C60 炭素原子60個の構造体

ナノテクの代表選手であるフラーレンC60は、炭素原子60個からなり、まさに切頂20面体の構造をもっている。フラーレンの命名は、建築家で正二十面体の構造をベースにドーム建築を研究したバックミンスター・フラーの名前に由来している。フラードームの名前を聞いたことがあるかもしれない。はじめてC60を発見した研究者たちが、似たような構造をもつフラードームから茶目っ気を出して命名したようである。

C60については、このサイトが面白い。

サッカーボール

お茶の間のTV観戦で、好きなサッカーチームの応援をしているとき、必死にボールの行方を見つめることはあっても、その形をじっくり見たことはない。サッカーボールにはFIFAの規格があるが、デザインや作り方まで規定されていない。サッカーボールの定番ともいえる白黒の亀甲模様のボールも切頂20面体だが、最初からそうだったわけではない。昔は豚や牛の膀胱を膨らませて、その表面に革のパネルを張り合わせて縫いつけた、紙風船のようなものだったらしい。作り方もいろいろで、完全な球でもないしサイズも同じではなかった。

革のパネルを貼り合わせたボール紙風船

サッカーが世界に普及してサッカーボールの製造が工業化するにしたがって、標準的な方法で規格化されたボールの製造が必要になった。その結果、発明されたのが切頂20面体の亀甲ボールだった。しかし、アルキメデスのころから考えられていた形状なのだから、ただしくは“発明した”のではなく“再発見した”ことになる。

FIFAの公式球として切頂20面体のサッカーボールが使われたのは1970年のメキシコ・ワールドカップで、アディダス・テルスターと呼ばれた。亀甲ボールもアメリカではバックミンスターボールとかバッキーボールと呼ばれる。

サッカーボールを作る

紙を折ってサッカーボールを作ってみよう。切頂20面体のイメージをつかむためだから、のりしろなど細部は省略する。

まず正20面体を考えよう。これは三角形だけからできているので考えやすい。

(1)用紙長手に、紙の高さの1/3以下の幅の平行線を描く。

(2)その帯に正3角形を10個はめ込む。

正3角形を10個

(3)その上下に底辺を共有する正3角形を描く。

平面へ展開した正20面体ができる

(4)これを折りたたむと正20面体ができる。

正20面体
正20面体

(5)ひとつの頂点に着目し、そこからでる5本の辺を、その頂点から1:2の点でスライスする。

頂点から1:2の点でスライス

(6)正20面体の残りの頂点でも(5)のようにスライスをする。

スライスした断面はあきらかに正5角形だ。また、もとの多面体の構成面である正3角形は、3つの頂点で同様にスライスされて正6角形が残る。

(7)スライスした面をふさぐと、切頂20面体ができる。

切頂20面体

これで、サッカーボールのできあがりである。

最近のサッカーボールは

2006年のドイツ大会では、従来の切頂20面体とはまったく異なるボールが使われた。その名は「+チームガイスト」(英語なら+チームスピリット)。パネルの継ぎ目がボールコントロールの精度を落とすため、パネル数を減らす工夫の結果たどり着いた形状だという。製造は同じアディダス社だが、日本のボールメーカーであるモルテン社が重要な技術を共同開発しているというのがうれしい。

サッカーボール +チームガイスト

蛇足

モミジバフウの実から思い出して、いろいろな話を集めてみた。それにしても、この切頂20面体というのは自然の妙というべきだろう。紀元前3Cにアルキメデスが純粋に幾何学を駆使して考えた形状が、端切れを張り合わせてなるべく円に近いものを作ろうとしたサッカーボールとして“再発見”された。さらに、最先端のナノテクの発祥の原点となったC20の形状がまったく同じものであった。そして、数千年に及ぶ人間の営為を見透かすかのように、はるか昔からタイワンフウの実は、その形状をわがものとしていたのだ。

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