道草Web

数日前に『崖の上のポニョ』を見た。宮崎駿、やりたい放題。観るものは自分の時間を彼に預けるしかない。

宮崎?クラゲ 画像はすべて『崖の上のポニョ』公式サイトより

冒頭からクラゲの浮遊する海中映像だが、手描きにこだわったという柔らかなタッチのせいで観るものの気持ちも和らぐ。エチゼンクラゲなら忌み嫌われるのに、ここに出てくるおびただしい数のクラゲはなんだか楽しげに海中を漂っている。そのうち、(訳のわからない)海底秘密基地みたいなところから、魚だか人魚だか子供だかわからないポニョとポニョそっくりの大勢の姉妹(そういえば兄弟ではなかったような)がでてきて、(なぜかわからないが)ポニョは一人(一匹?)旅立つのである。

ポニョポニョの姉妹

好奇心旺盛でいたずら好きのポニョはクラゲにのって海面へ出て、いろいろあるのだが、やがて高い崖の下へくる。その崖のてっぺんの一軒家に、同じくらいの歳の宗介が住んでいる。この一軒家、観客は見るなり自分も住んでみたくなるのである。

宗介の家 草に隠れた道で海岸へ降りられる

はじめてみる海岸で、はじめてみるガラスビンに頭を突っ込んだポニョは抜け出せなくなって気絶してしまう。そこへ、崖の上の家から宗介が海岸へ降りてきてビンを見付ける。ポニョを助けるためにガラスビンを割ろうとして宗介は怪我をする。窒息しそうになっていたポニョが蘇生して、宗介の傷をなめるときれいに治ってしまう。ここに重大な伏線が敷かれている。とにかく、出会った宗介をポニョはすっかり好きになってしまう。宗介ももちろん同じだ。

宗介とビンに詰まったポニョフジモト

実はポニョは、人間を捨てて海底に住むフジモトという研究者と海の女神の間に生まれた子どもなのだ(人と神の子ども?不思議)。フジモトはこの疲弊しきった地球(少なくともこの映画ではそんなことなさそう)を原始の状態(デボン紀を想定しているようだ)へ戻すための膨大なエネルギー源を秘密基地で合成しては蓄積している。

海底基地のフジモトとポニョフジモトの愛艇ウバザメ号

延々と楽しいディテイルがあるのだが、はしょる。

宗介と仲好しになったポニョは、追いかけてきたフジモトによって海底基地へ連れもどされてしまう。しかし、ポニョがだまっておとなしくしているわけはない。どうしても宗介の元へ戻りたい。魔力を使い、姉妹の協力を得て、フジモトが営々と蓄えたエネルギーを解放してしまう。

大嵐が起こり、海は膨張して、海水は高波となって陸を襲う。その波頭に立ってポニョは崖の上まで駆け上るのである(クライマックス!!!)。このあたりのBGMは、ワグナーのワルキューレをパクって勇壮である。なんだかブリュンヒルデをもじった名前が出てきていたが忘れた。血をなめたことでポニョは人間のDNAを得ている。人になりたいと念力すると足や手が生えてくる。ポニョの魔力はすごいのである。なんてっても、母方の血が違う。

原始(原子ではない)エネルギーの暴発で、大津波が世界を襲い、異常な重力によって月はあばたが見えるまで接近している。まあ、普通なら大災害が起きて地球は惨憺たる状態になるのだが、宮崎映画はそうはならない。海面が上昇して崖の上の家の床下を浸すようになっても、(なぜかわからないが)海水はあくまで澄んでいて、デボン紀の魚のような生物が悠々と庭先を泳でいたりする。

クレーターも見えるまで接近した月デボン紀の魚

地上の住民もさしたる被害にあった様子もなく、みんなそれぞれ適当な舟にのって避難をしている。空は明るく水は澄んで、まるでヘンデルの水上の音楽を楽しんでいるように牧歌的。宗介のお母さんが勤める養老院も水中に沈んでしまったのだが、クラゲのひだのような透明な被覆に保護されていて、車椅子の老人たちは立ち上がって駆け出したり、口からゴボゴボ空気をはきながら喋っている。水中なのに、おぼれている風はまったくない。

宗介と養老院の老婆たち 右の老女は宮崎駿の母がモデルという

このままでも結構楽しいジャン、という状況なのだが、フジモトは、このままでは地球は大変なことになると焦っている。解決するには、(訳はわからないが)ポニョの魔力を失わせるしかない、ようなのだ。そのためには、(訳はわからないが)ポニョを元に戻すか、完全に人間にしてしまわねばならない。宗介のお母さんと女神が相談して、ポニョと宗介の気持ちを確認する。そして、人間になることを選んだポニョを女神は泡に閉じこめる。それを地上に持ち帰り、宗介がチュウをすると、ポニョは目出度く人間になるのである。

宗介の母女神 このキャラのみあまり趣味でない

この映画を観る人は訳など詮索してはいけない。ただ、その訳のわからなさが楽しみであるような境地に達しないと、この映画は見続けることができない。

あああ、終わってしまった。だが、この日一日、(なぜかわからないが)幸せな気分であったことは言うまでもない。もう一度、観よっと。

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