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他界した友の真空管アンプを仕事部屋のBGMに使うことにして、Windows Media Playerで聞き慣れたCDを何枚かPCへ取り込んでみた。当方はいい歳をしてPC addictのようなものだから、仕事をするときも読書のときも、机に向かっているときはPCの電源を入れている。だからBGMにPC音源を使うにはもってこいの環境である。昔のPCのオーディオはアラームが聞こえればいい程度のものだったが、最近はマザーボード(あるいはオーディオカード)によっては光や同軸の出力を備えている。さいわいわがPCにもそれらの端子がある。テレビの衛星放送用のケーブルはオーディオ用の同軸ケーブルと同じインピーダンスだし信号強度はオーディオのほうが有利だから十分利用できる。余っている同軸を利用してPCとDACを繋ぐことにした。

 
手前DAC、奥真空管アンプ、上紙筒SP

友の真空管アンプは4本ある出力管の1本が、長時間電源を入れると過熱して雑音を発生する。だから、PCの12ボルト電源を引き出してファンで冷却することにした。大型の静穏タイプなので音は気にならない。しかしファンを回していても余り長くなると電極が赤熱して突如ブーブーいい出すのである。友人にもそんなところがあったから、ふふふ、似ているわい、などと思いながらしばらく使っていた。

赤熱した出力管 こうなるとお手上げセンサー(真空管の上に置いた金属棒)の温度は
120℃を超えもう危険

真空管が過熱状態になるのは電源を入れてから2時間くらいだろうか。忘れたころのブーブーがはじまり、すぐに電源を落とさないとガリガリと装置が壊れそうな音まで発生するようになった。突如大きな雑音が出るのは心臓に悪いので、燻製用の温度計でアラーム機能のあるやつを問題の出力管の頭に接触させ90℃を超えたら警報を鳴らすようにした。しかし、使うほどに劣化も進んでしまうのか、警報の頻度はどんどん増えていった。これは真空管の交換かなと思い、いまどき入手できるものかどうか調べてみた。いつの世にも好き者はいるわけで、ネット上にはいまでも真空管の隠然とした市場が形成されていた。使っている出力管は7591Aといい、これをプッシュ・プル(懐かしいなあ)で使っているで、特性を揃えるためには2本の差し替えが必要になる。値段はピンキリだが最低でも5,000円程度になる。

ここでふと魔が差した。この値段なら中国製の安直なデジタルアンプが買える。しかも、Nmodeのデジタルアンプを買ったときから気にはしていたのだが、この安物アンプの音質の評判がすこぶるいい。大分迷って、結局、このアンプを通販で取り寄せてみた。アンプを作っているメーカーはいくつかあるようだが、いずれもTripath社(倒産したが製造は他社が引き継いだとか)のICを使っている。このIC一個を基板に載せて配線すれば音は出てしまう。高度な音出しのノウハウなどは必要ないようだ。

筺体は黒でフロントパネルはアンプによく使われるシャンペンゴールド。この彩りは大物だと派手すぎるが、この大きさだとなかなかいい。テーブルに置いてみると水平が取れずにガタつくあたりがいかにも中国製。ゴムのパッドが四脚付いているがその高さがまちまちなのだ。そのくらいチェックしないのかと笑ってしまう。金メッキもじきにはげてきそう。しかし、使用中は電源SWのオレンジのランプやボリューム回りのブルーのリングが点灯して雰囲気は悪くない。

Tripathのアンプ 「TAS3」 比較のため小型マウスを置いた
 

そうなると、Tripathが居間に鎮座するメインのスピーカーを鳴らせるものか気になってきた。居間にあるのはDynaudioのContour 1.3SEという低能率でアンプにパワーを要求するSPである。ある程度の出力で鳴らさないと真価は発揮できない。テストに使ったのは「デジタルアンプの音」で触れたと同じソースだが、いや、驚きました。ことごとく問題なく鳴ってしまう。突如飛び出すシンバルの衝撃も家を揺るがすオルガンの低音も…………。Tripathの出力は25Wあるが電源はACアダプタである。真空管とはエネルギーの変換効率が比較にならない。

Windows Media Player

これじゃ貧乏人が大枚はたいて買ったNmodeのアンプと何が違うんだ? ちょっと焦った。Tripathとメインのアンプを交互に繋ぎ直して大音量で比較してみた。まず一番の違いは音のエネルギー感、次にきめ細かな質感といったところだろう。しかし、再現される音場の骨格はほとんど変わらない。例えば、遠目は同じに見える彫像が近くで観察すると細部の仕上げが異なるといった違いだ。値段の差ほどかと言われると反論できないが、高いものはそれなりの裏付けがあることは確認でき、正直なところホッとした。とはいえNmodeのデジタルアンプの音を知らずに、いきなり前のアナログアンプからTripathに切り替えたのだったら、結構それで満足していたのではないかとも思う。

ともあれ安アンプと紙筒SPの組合せはメインの装置より長時間にわたって聴くシステムになることは間違いなさそうだ。

音量を調性しやすいように手近に置いたTripath

というわけで、友のアンプはまた部屋の隅で休眠状態に入った。でも、いずれ真空管を交換して、薄暗い部屋でぼんやり光る真空管を眺めながら、友と過ごした愉快な日々に思いを馳せることもあるだろう。

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