道草Web

最近、うちのオーディオはまったく鳴かず飛ばず状態だった。アンプは、プリもメインも修理に修理を重ね、もはや累積修理費は購入金額をとうに超えているだろうとい状態。ただ、あまりたびたび修理に出すもので、向こうも少しは良心の仮借があったのか、いかれそうな部品を全取っ替えするほどのオーバーホールをやってくれた。おかげで、アンプはなんとか正常である。

スピーカーは、まず低音用ウーハーがイカレて(合成樹脂の疲労でエッジが破けた)ユニット交換、次に高音用のツイーターがぶっ飛んだが、もうすでに交換部品は在庫がない。別のツイーターを買って、ネットワークのパラメータをいじるほどの熱意はもはやない。TVに使っていたスピーカー(イギリス製のスペンドールBCUという一世を風靡したものだが、いかにせん音が古い)を二階に持ってこようかと考えたが、ときを同じくして、こちらも音がかすれだした。スピーカーは、お手上げだ。

次に、CDプレーヤーもトラブルの連続だった。暑くなると再生トラックが飛び、最終的に、エジェクトボタンを押しても、ウーンなどと唸るだけで、CDトレイが出てこなくなった。すでに何度か修理しているし、アンプほどの品質の製品ではないので、いまさら修理という気になれない。

こんな状態でしばらく過ごしてきたが、ついに意を決した。ハイビジョンはまだ諦めるとして、せめてオーディオをなんとかしよう。アンプはまだ使いたいし、実のことを言うと、いままでのCDプレイヤーとスピーカーでは、このアンプの実力の半分も出していない状態だった。そこで、スピーカーとCDプレイヤーを買うことにした。

まずスピーカーだが、これはもうあまり大きな物はいやだ。小型でまともな音の出るものをねらった。早速、オーディオ誌で最近の機器の評判をチェックしたり、インターネットで関連サイトを探ってみた。どうやらB&Wというイギリスのメーカーのブックシェルフ型にターゲットが絞られてきた。実際に秋葉原で試聴してみた。正面から見た面積は、ブリタニカくらいしかない。しかし、目隠しをすればサイズからはまったく想像できないスケールの音がでる。音色も自然だ。一昔前のブックシェルフからは想像できない音だった。

で、すんなりそれに決まるかというと、そうはいかない。すぐに、欲が出るのだ。これを基準とすれば、同じ価格帯で他にもっと良いものはないか。それから、また彷徨が始まる。インターネットで価格サーチをしているうちに、『吉田苑』という福岡のオーディオショップのWebページに出会った。秋葉原価格や他の通販より大分安い。焼き肉屋みたいな名前だなあと思いながらもページの内容を読むと、相当なキャリヤと、なによりも見識がある。さまざまに検索してみると、それなりに有名な店で、東京で独自の試聴会を開くなどの実績もあった。信じやすいOJとしては、この店に賭けることにして、質問のメールを出した。実は、B&Wのこれこれを目指しているが、同じ価格帯でお薦めの製品はあるか?とね。素早い返事が来て、デンマークの ディナウディオ社の製品がよろしいとのご託宣。

また、OJは秋葉原の試聴にでかけた。こいつが、良いのである。文句なく良いのである(いままでの自分の装置に比べれば当然で、なんといっても試聴室では、ウン百万のアンプとプレイヤーを使っているから、その分を差し引く必要がある)。ところで、この製品には、まったく同じサイズでユニットとネットワークを改良したSpecial Editionがある。どうせならと、そいつも聴いてみた。こういうときは、絶対に上を見てはいけないのだ。パンドラのハコなのである。でも聴いてしまった。一皮むけた音といおうか、音がより素直で、ディテールが鮮明。ノーマルTVとハイビジョンとまではいわないが、もう後戻りはできなくなった。

数日の逡巡の果てに、こいつを買うと決断し、問い合わせると、なんと在庫がなくて8月まで待てという。しかし、スタインウエイ塗装のブラックピアノ仕上げの特製品ならあるという。ああ、また高くなってしまう。ピアノ好きのOJは、われながら浅はかと思いつつも、スタインウエイにつられて注文してしまった。CDプレーヤーは、向こうまかせで、CEC製のベルトドライブ(なんて懐かしい響き)のものにした。CECは、日本のメーカーだが、レコードプレイヤーのモーターでは、知る人ぞ知る古参のメーカーだ。今を去る数十年前にこの社のターンテーブルでプレーヤーを作った覚えがある。

というようなわけで、我が家のオーディオ装置は一新した。自宅で聴いた第一印象は、CDにはこんなに沢山音が詰まっていたんだ、だった。なんだか、風が吹き出してくるように音がわき出してくるのである。最初に聴いたポルリーニのクライスレリアーナでは、彼のハミングやペダルの音までがごく自然に聞こえて来たものだ。そうか、オーディオ装置というものは、忠実に音を再生するというよりは、余計な音を出さない物なんだなあと、変な感心の仕方をしてしまった。


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