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西博『ジョルジュ・ド・ラ・トゥール展』

あまり混んでいなくてゆっくり見ることができた。この画家の作品の真贋はいまだに確定していないものが多いらしく、出品作にも贋作あるいは模作とクレジットの入っているものが少なからずある。

学生のころに 保育社のちいさな画集で見たときの強い印象以来、これだけ多くのラ・トゥールを見るのははじめてだったが、 結論から言うと、いま一歩、絵の中へ入り込むことができなかった。 円山応挙展のところでも書いたが、ド・ラ・トゥールという画家は、あの神聖とも見える光の描写から連想して、いかにも信心深い男と思ってしまうが、じつは相当に“したたかな”俗物だったという。雑誌かなにかの記事で読んだのだが、若い頃からの抱いていた印象を30年以上もたって覆されたとき感じた意外性はいまでも鮮明だ。

十二使徒の連作は聖人というより身辺の農夫の肖像のおもむき。なかでも西博が購入したという聖トマスはかななかの買い物だったようだ。目玉のノミを捕る女やいかさま師達にはどうも違和感がある。なにか卑しいというか濁った思惑がちらついて見える。いかさま師達は、テーマそのものからして当然といえば当然だが、ちょっと表現できない別のなにか嫌なものがにじみ出してくる。概して子供と老人をテーマにしたものが好ましく感じられる。子供のキリストや子供のような天使と聖ヨセフとを描いた「聖ヨセフの夢」や「大工の聖ヨセフ」が一番よかった。「イヌを連れたヴェイル弾き」の、あの可愛いイヌが会場の案内役になっていたのがご愛嬌。

カラヴァッジョを原点とする光と陰の系譜。ド・ラ・トゥール、レンブラント、フェルメール をじっくり調べてみたいが、どうせできないだろうなあ。


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