今年の長雨で不作だったニガウリを片づけようと、二階のベランダへ出ていた。そこへイヌの散歩の見知らぬオバサンが通りがかった。オバサンはもとよりこちらの視界にいることに気付いていない。イヌは、丁度、向かいの お宅の前あたりでもよおしたらしい。つつっと、玄関前の草地に入って放尿しだした。
オジサン思わず、 “他人の家の玄関前で小便をさせるのは、止めなさいよ”
はっとしたオバサン(まずいとは思ったのだろう)、一瞬たじろいだ後、
“明日は、雨できれいになるから、構わないでしょ。”
オジサンは、あきれて、
“何を言ってるんだ。そういう問題じゃないだろ。自分の家の玄関先で、イヌが小便をしたらあんたはどういう気分がするんだ。”
オバサンは反論に窮して、強烈な拒絶を示した、
“この、わからず屋の、糞ジジー。”
ついにオジサンは、ジジーに出世した。倫理と論理は止揚され、主客の鮮やかな逆転である。カッとして何か言おうとする前に、これは負けだな、と感じた。このオバサンの土俵に引き込まれては勝ち目がない。ベランダに立ちすくむオジサン、いやジジーを尻目に、オバサンはイヌを急かすこともなく、悠然と立ち去ったのであります。